子どもの本を読む試み いきがぽーんとさけた
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『古事記』 [上の巻] 18 天つ神に寿命が設定された瞬間
ある日、邇邇芸命(ニニギノミコト)は笠沙之岬(かささのみさき、鹿児島県南さつま市笠沙町の野間岬)で麗しい乙女に出会います。彼はひと目で恋に落ちてしまいました。

ニニギノミコトは娘の名を尋ねます。すると娘は大山津見神(オオヤマツミノカミ、[上の巻] 03 神生みを参照)の娘で名を木花之佐久夜比売(コノハナノサクヤビメ)と申しました。

ニニギノミコトは続けて兄弟について尋ねると娘は、姉に石長比売(イシナガヒメ)がおりますと答えます。

ここでニニギノミコトは娘に結婚を申し込みます。娘は、それについては父が申し上げることでしょうと答えました。早速ニニギノミコトはオオヤマツミノカミに使いを出して尋ねさせます。



するとオオヤマツミノカミはたいへん喜んで、コノハナサクヤビメばかりか姉のイシナガヒメを添えて、たくさんの嫁入り道具を持たせ、ニニギノミコトのもとに送り出します。

古代では、結婚は家同士の結びつきをあらわし、一人の男性に姉妹が同時に嫁ぐことはよく行われることでした。

ところが、容姿端麗なコノハナサクヤビメに対して姉のイシナガヒメはひどく醜い娘でした。ニニギノミコトはその醜さに驚き恐れ、会ったその日に彼女を実家に返してしまいます。そしてコノハナサクヤビメだけを自分のもとに留めて交わります。

オオヤマツミノカミは、イシナガヒメが送り返されてきたのを恥じ、次のように予言されます。

「私が二人の娘を並べて差し出したのは、イシナガヒメを側において頂けたのなら、天つ神の命は、雪が降り風が吹いたとしても、常に石のように変わらず動きませぬようにとの思いで、また、コノハナサクヤビメを側において頂けたのなら、天つ神が木の花が咲くように栄えますようにと、願をかけて送り出したのであって、イシナガヒメだけを返されたのであれば、今後天つ神の命は、桜の花のようにもろくはかないものになるでしょう」

これ以来、今に至るまで、天皇の命には寿命が与えられ、限りあるものとなりました。



その後しばらくすると、コノハナサクヤビメがニニギノミコトの元へやってきて、天つ神の御子の妊娠を告げます。しかしニニギノミコトはまだ時を置かない、たった一夜の交わりで妊娠をするのはおかしいと、それは私の子ではなく国つ神に子であろうとの疑いを持ちました。

それに対してコノハナサクヤヒメは、「もし私が生む子が国つ神の子であれば無事に出産することはないでしょう」との予言を吐き、そして彼女は八尋殿(やひろどの、神聖な建物)を作り、中に入ると内側から土で出入口を塗り塞ぎ、出産が近づくと御殿に自ら火を放ち、燃え盛る炎の中で子を生みました。彼女は体を張って生まれた子がニニギノミコトの子であることを証明してみせたのです。

火の中で生まれた子は三神。火照命(ホテリノミコト、海幸彦)。これは隼人(はやと)の阿多君(あたのきみ、薩摩国阿多郡、鹿児島県南さつま市を本拠とした豪族)の祖です。次に火須勢理命(ホスセリノミコト)。その次に火遠理命(ホオリノミコト、山幸彦)またの名を天津日高日子穂穂出見命(アマツヒコヒコホホデミノミコト)といいます。



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人間に寿命が与えられたのはイザナミノカミの呪いであることはすでに述べました([上の巻] 04 黄泉の国を参照)。一方神には寿命というものがありませんでした。ところがこの節の出来事によって天つ神(天つ神は高天原にいる神々、または高天原から天降った神々の総称、それに対して国つ神は地に現れた神々の総称)に寿命が設定されるのです。

前述の通り、ニニギノミコトが、イシナガヒメをその醜さゆえに結婚相手として迎えず、送り返したことがその原因です。娘の父親であるオオヤマツミノカミは、イシナガヒメに永遠の命の願をかけて送り出していたのですが、ニニギノミコトは、これを送り返してしまったのです。

これ以降、天つ神の子孫には寿命が設定されます。子孫である天皇にも寿命が設定された瞬間です。オオヤマツミノカミの呪いといってもよいでしょう。ニニギノミコト自身にも寿命が与えられました。実際、日本書紀には、ニニギノミコトの崩御と埋葬地の記録があります。

しかし、寿命が与えられたからといって、神の霊力が失われたことにはなりません。実際、山の神であるオオヤマツミノカミの霊力は、次節で述べる孫であるホオリノミコト(山幸彦)に受け継がれています。



天孫降臨以降、神話の舞台は、出雲から九州南部に移ります。コノハナサクヤビメとイシナガヒメの説話の源流はセレベスのバナナ型説話ではないかといわれています。その説話では次のように語られています。

『最初の人間は創造神が天から下ろしてくれるバナナを食べて命を保っていました。ある日神が石を下ろしたので、人間が他の食べ物を求めると、神はバナナを下ろして「お前たちはバナナを選んだから、人間の生命はバナナのようにはかなくなるだろう。石を選んでおけば、人間の生命は石のように不変であったろう」といいました。』

この説話はインドネシア系種族とされる隼人族が伝えていたもので、神話の舞台背景とちょうど合致します。バナナはコノハナサクヤビメを、石はイシナガヒメを連想させます。





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