子どもの本を読む試み いきがぽーんとさけた
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グリム童話(KHM176) 『寿命』 人生に対するシニカルな視点
シニカルですが、非常によくできた寓話であると思います。

神さまは、世界を作り、生き物たちの寿命を定めようとしました。神さまはそれぞれの生き物に公平に30年を考えているようですが、決定に際しては、それぞれの生き物の意見を聞いています。



まずは、神様のもとに、ろばがやって来て、わたしは、どれくらい生きればよいのかと神さまに尋ねました。ろばは神さまに30年はどうかと問われると、長すぎると訴えました。

ろばは、神さまに、彼らの過酷な生活を説きます。朝早くから夜遅くまで、荷物を運び続け、休もうものなら鞭で打たれ、足でけられるありさまです。そんなろばを、神さまは哀れに思い、ろばの寿命を18年削ってやりました。



次に犬がやって来ました。すると、犬もやはり、30年は長すぎると訴えました。犬は、どれほど走らなければならないかを、神さまに説きます。

そして、しまいには、声も出せずに、吠えることもできなくなり、ものを噛む歯もなくなるでしょう。そうなれば、うろうろとして唸ることしかできません。神さまはもっともだと思い、犬の寿命を12年削ってやりました。



次に猿がやって来ました。そして猿も、30年は長すぎると訴えます。猿は、ろばや犬と違って、働かなくてもいいのだからと、神さまは意外に思いました。

すると猿は、人間の慰みものになって、いつも笑いを提供しなくてはならないことの辛さを、つまり、笑いの影には、しばしば悲しみがあることの実情を説きました。神さまはなるほどと思い、猿の寿命を10年削ってやりました。



そして最後に人間がやってきます。人間は、楽しそうで、健康で、元気でした。神さまは他の生き物同様、人間にも30年の寿命を与えようとします。しかし、人間だけが30年では短すぎると訴えるのでした。

ならばと神さまはろばと犬と猿から削ってやった寿命を人間に授けます。つまり人間の寿命は70年と決まりました。それでも人間は満足せず、神様のもとから去りました。



こうして人間の一生の歴が定まります。つまり、始めの30年は人間らしい年月を過ごします。健康で、働くことが楽しく、日々の生活に楽しみを見出していました。

しかし、これに続くのは、ろばの18年です。みんなを養うために、鞭を打たれ、足蹴にされても働き続けねばなりません。

次に続くのは犬の12年です。隅っこに寝そべって、ブツブツとつぶやくだけで、ものを噛む歯もありません。

締めくくりは猿の10年です。おろかで馬鹿で間抜けなことばかりをして、子どもたちに嘲り笑われるのです。と物語は結ばれます。



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簡単に述べるなら、他の生き物たちの老いた晩年を、人が譲り受けて寿命を伸ばしたという話です。この物語を、人々が聞いたり読んだりして生まれてくる思いは、二つに分かれて対照をなすのではないでしょうか。

ひとつには、この物語の視点を良しとせず、人間に対する、肯定的で、建設的な思いであり、それらの思いは老いに対する抵抗という形をとって現実に生成します。これには多くの人々が携わります。人々は、老いから逃れる方便を、日々、様々な分野で、達成しようとしています。

人々は、この物語に描かれるような、ときに陥りがちな、シニカルな視点から見える人間世界を変えたいと、日々悪戦苦闘しているように見えます。



しかし、一方で、この物語が語らんとするように、老いに逆らわない、他の生き物側に寄り添った思いに、重心を置く方もいるでしょう。他の生き物が放棄した寿命を、神さまが聞きとどけてくれたくだりに、救いを見いだすような考え方です。

冒頭に述べたように、ある意味シニカルですが、このような視点もありえます。物語は、死を拒否する者は、生命をも拒否するという視点から語られているようにも思えます。難しい問題ですね。





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18:37 : グリム童話(KHM 161 - 200) : comments(0) : trackbacks(0) : かがり :
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