子どもの本を読む試み いきがぽーんとさけた
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『思い出のマーニー』 ジョーン・G・ロビンソン 岩波書店
境遇がそうさせたのでしょうか。自分から、なにも”やってみようともしない”無気力な女の子、アンナの救済の物語です。

彼女は、幼くして親を失います。甘えたい年頃なのに、それを押し殺して生きています。

親を失った代償は、ロンドンでの育ての親プレストン夫妻との生活の中では埋められず(プレストン夫妻は決して悪い人達ではないけれども)、アンナは次第に孤独癖をつのらせてしまいます。もちろん友達も出来ません。

ついに殻に閉じこもって、誰にも心を閉ざしてしまいます。とうとう学校にも通わなくなってしまいました。

そんな彼女の、孤独な人間にありがちな、ちょっとひねくれた妄想が、吐露されてゆきます。

やがて、アンナのことをを心配したプレストン夫妻は、イングランド東部のノーフォークにある、入江に面した村リトル・オーバートンに住む古い友達、ペグ夫妻のもとに彼女を預けることにしました。

ここでのアンナの生活が物語の骨子です。



リトル・オーバートンでのアンナの生活は、始めのうちこそ、相変わらずでしたが、しだいに”しめっ地やしき”と呼ぶ、海辺の古い屋敷に引きつけられてゆきます。童話によく出てくる異界と呼ぶべき場所でしょうか。そして彼女は、そこに、どんな人が住んでいるのだろうと興味を持ちます。

そして、足しげく”しめっ地やしき”に通っているうちに、ここで、マーニーという不思議な少女と出会います。

アンナは、日を重ねてマーニーに会っているうちに、彼女を、心を許せる唯一の友達だと知ります。

やがてアンナはマーニーの虜になり、彼女なしではやっていけないぐらいに執着します。そして、毎日、彼女の姿を追って生活を送るような日々を過ごす事になります。

二人は永遠の友情を誓い合います。アンナはこの交友の中で、これまでのことを癒してゆきます。そして不意に訪れる不思議な別れ。アンナは命をかけて再会を果たそうとしますが叶いません。



マーニーとはいったい何だったのでしょう。アンナのこれまで抑圧して、向き合うことを避けていた自分の分身のような存在なのではないでしょうか。アンナの無気力は結果として、マーニーと向き合うことで、いつの間にか解消されてゆきます。そして、マーニーは、ことが済んだら去っていってしまいました。

以来アンナは、周りの出来事が別世界に感じられるようになります。活気も出てきました。なにも”やってみようともしない”彼女は過去のものとなります。アンナはこれまでの出来事と和解します。同時に彼女に関わってきた周りの人々とも…。そして未来に出会うであろう人とも…。

アンナのちょっとひねくれた妄想は、物事の受け取リ方の裏反分に由来するものに過ぎなかったのです。彼女の境遇からくる、心の癖のようなものだったのでした。

彼女は表半分にも目を向けました。すると全てが受け入れられるではないですか。彼女の性格は、ほぼ180度変わってゆきます。天真爛漫といっていい程に…。



最後にマーニーの本当の正体が明かされます。マーニーは、今は亡き、アンナの実のお祖母さんでした。アンナのリトル・オーバートンでの大きな成長は実は、お祖母さんの自分が果たせなかった思いへの孫に託された希望が姿をとったものでした。

そして、アンナとマーニーとの間で交わされた出来事は、もしこういう言い方が許されるなら、アンナの不安定な時期を、架空の世界の中で、お祖母さんであるマーニーが支えていたということなのだと思います。

また、先程マーニーの自分が果たせなかった思いと書きましたが、マーニーは、全てを持っているようで、実はあまり幸せな幼少時代を送っていないのです。時は隔ててもお互いがそれぞれを求め合っていたとも言えます。

この物語は幾重にも層が折り重なり、読み手に、まだまだたくさんの解釈を許します。子供はもちろん大人にも十分読み応えのある作品です。また、もしも私が女性なら、ディティールまで、もっと共感できた部分もたくさんあったものと思います。


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