子どもの本を読む試み いきがぽーんとさけた
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『床下の小人たち』 メアリー・ノートン 岩波少年文庫
1952年に、イギリスの図書館協会が主催する児童文学賞である、カーネギー賞を受賞した作品です。日本では、スタジオジブリの作品『借りぐらしのアリエッティ』の原作として知られています。



物語は、ロンドンで暮す少女ケイトが、親類で、この家に同居するメイおばさんと交わすおしゃべりで始められます。それは、メイおばさんが空想癖のある戦死した実の弟からの、あることないことを聞かされたお話の一つでした。

そのお話は、あまり体が丈夫ではないその弟が、まだ若い頃、リューマチの療養で、大叔母の家に滞在中に経験した、小びととのお話だといいます。

物語の視点は、その小びと側から描かれてゆきます。小びとの少女アリエッティ・クロックとその父親であるポッド・クロックと母親のホミリー・クロックのクロック一家が、人間の家でのひっそりとした”借り暮らし”の生活(ほんの少しだけ、人間から、暮らしに必要な物を拝借してくる生活)をする様子が描かれてゆきます。



ある日ポッドは、この家にはいないはずの男の子に、うっかり姿を見られてしまいます。つまり、前述の、メイおばさんの、あの弟に見つかってしまうのです。

小びと達にとって人間に見られるということは、自分達の命に関わることであり、あってはならないことなのです。そういう”しきたり”になっていました。小びとは人間にとって、存在してはならないものなのです。人間は、家に猫を放つかも知れません。

もし人間に見つかってしまったら、移住を考えざるを得ません。そしてたくさんの小びとの家族が、この家から移住していきました。クロック一家がここに残れたのは、父親であるポッドの”借り暮らし”の腕が良かったからです。

しかし、とうとうポッドは見つかってしまいました。ところが、その男の子はポッドを助けたのでした。クロック一家は、しばらく様子を見ることにします。と同時にクロック夫妻は、この出来事を機にアリエッティに外の世界のことを教える決心をします。アリエッティも、じき14歳になります。



ついにアリエッティに”借り暮らし”の生活の実際が明かされます。彼女は父の後を追って、この床下の小さな隠れ家を出ます。何もかもが新鮮で、彼女は喜びでいっぱいでした。

そして父親が”借り暮らし”の仕事をしている間、アリエッティは、野外で待っていると、なんと間の悪いことに例の男の子に見つかってしまうのです。

しかし、恐れを知らないアリエッティは見られてしまうばかりか、男の子と会話を始めました。ついには男の子に向かって父親受け売りの人間批判まで講釈する始末。人間はいつか滅びてしまうと...。

しかしその考えは、男の子に、簡単に覆されてしまいます。小びとこそ、君ら3人以外にいるのかと、また、君は他の小びとを見たことがあるのかと問いただされます。そして一番若い小びとである君が、最後の”借り暮らし”屋だと告げられてしまうのでした。

不安になったアリエッティは泣き出してしまいます。しかし男の子は、他にいるかも知れない小びと探しの協力を申し出ました。



アリエッティは親に隠れて人間と交流を持つことを決心します。しかし、決心したのもつかの間、例の男の子と話をしているところを、ポッドにあっけなく見つけられてしまいます。

アリエッティはこっぴどく叱られますが、人間に見られてはいけないという、そんな”しきたり”の方が、おかしいのだと反抗します。しかしポッドは聞く耳を持ちません。

ポッドはいいます。

「人間は正直かもしれんし、ずるいかもしれん。そりゃ、その時次第ってもんだ。けものでも、口がきけたら、おんなじことをいうだろうさ。人間に関わりあうなと。」

これは痛烈な人間批判です。



そして、ついにクロック一家に恐れていたことが起こり始めます。続きのエピソードは、ぜひ本をあたってみてください。



作者メアリー・ノートンは近代文明の行く末に危惧を抱いていた作家でした。近代文明は、やがていつの間にか一人歩きをしだして巨大化し、様々な問題を引き起こしていきます。いくら文明が発展しようが、それらは、使うもの次第であり、近代文明に何も考えず、依存することへの危うさを感じていたのだと思います。

それに彼女の世代の背景には戦争というものがあり、嫌が上にも近代文明の矛盾を突きつけられていたのだと思います。

彼女が、この物語の主人公に”借りぐらし”という一種の依存をなりわいとする、小びとをおいたのは、巨大化した文明に依存している人間が、いかにして生きていけばよいのかを象徴的に表現するための仕掛けとするためでしょう。

また、小びとたちには”しきたり”というものがあります。人間に見つかったら、その屋敷を引っ越さなければならないというものです。ここで言う人間に見つかるという状況は、近代文明に近づきすぎたことを表しているのでしょう。そこからの距離感が重要な問題になっているのです。

それにしても、彼ら、小びとたちの生きる道は、決してたやすくなく、物語は、小びとの生き残りをかけた冒険譚になっています。



また、お話以外で、気になったことがありました。それは、ストーリーとはあまり関係のない挿し絵になっている、アリエッティの日記帳の”今日の言葉”です。

7月11日「汝の楽しみを骨折り仕事にするなかれ」など。

遊び心ととらえるか、ある特定の効果を狙ったものと感じるか、人それぞれでしょう。面白い仕掛けです。



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