子どもの本を読む試み いきがぽーんとさけた
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グリム童話(KHM121-160) リンク
グリム童話(KHM121) 『何もこわがらない王子』 こわがらないことの美徳を語った物語たち
グリム童話(KHM122) 『キャベツろば』 森のおばあさんという謎の存在
グリム童話(KHM123) 『森のおばあさん』 魔女という記述の有無
グリム童話(KHM124) 『三人兄弟』 多くの末子が成功する物語の中では変則的な物語
グリム童話(KHM125) 『悪魔とそのおばあさん』 悪魔のおばあさんが登場するお話について
グリム童話(KHM127) 『鉄のストーブ』 口承の物語の上手な活字化について思うこと
グリム童話(KHM129) 『腕利き四人兄弟』 グリム童話で用いられる主要職業を持った四人兄弟

グリム童話(KHM132) 『きつねと馬』 狐が用いるごまかしという知恵について
グリム童話(KHM133) 『おどってすりきれた靴』 なぞかけの物語グリム童話第二巻版
グリム童話(KHM134) 『六人の家来』 グリム童話第一巻と第二巻、民話の原型に近いのは?
グリム童話(KHM136) 『鉄のハンス』 内在する強い道徳性、共感性

グリム童話(KHM143) 『旅に出る』 言葉の両義性を描いた物語
グリム童話(KHM144) 『ろばの子』 グリム童話第二巻の編纂方針の是非
グリム童話(KHM146) 『かぶら』 幸運とは導けないもの
グリム童話(KHM148) 『神さまのけだものと、悪魔のけだもの』 正義の狼
グリム童話(KHM149) 『天井の梁』 色々な受け取り方ができるであろう短い物語

グリム童話(KHM151) 『ものぐさ三人息子』 三人兄弟の相続の分配に関する、二、三の考察
グリム童話(KHM152) 『ひつじ飼いの男の子』 空想を現実に生成させるということ
グリム童話(KHM153) 『星の銀貨』 本物の信心にもたらされた福音
グリム童話(KHM155) 『嫁えらび』 結婚相手に求められていること
グリム童話(KHM159) 『ディーマルシュのほら話』 口承で本領を発揮するであろう物語
グリム童話(KHM160) 『なぞ話』 読者参加型なぞ話



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18:19 : グリム童話(KHM 121 - 160) : comments(0) : trackbacks(0) : チキチト :
グリム童話(KHM160) 『なぞ話』 読者参加型なぞ話
短いお話続きます。

お話はこうです。三人の女の人が花に変身させられました。外目には、誰が誰だか分かりません。花は野原に咲いていましたが、夜になるとひとりだけ変身が解かれ、家に帰ることが許されています。

ある夜のこと、ひとりの女の人が、家に帰り、夫に今の境遇から解放される方法をを教えます。それは、朝になって、花でいる時に、夫につまれることで成し遂げられるというものです。

夫は妻の言う通りにして、彼女を救い出します。ここで、なぞが出されます。さて、夫はどうやって三本の花から妻を見分けたのでしょうかというものです。

答えは三本の花から夜露に濡れていない花を選び出したというものです。妻は自分の家に帰っていたのだから夜露には濡れないということです。



題名の通り、グリム童話で、お馴染みの、なぞのお話ですが、これまでは、たいてい、ストーリーを際立たせるために用いられるような、なぞを出した本人にしか、答えがわからないような問題ばかりでした。

しかし、この物語のなぞは、読者に、答えを出させるような展開に重点を置いて構成されているようです。ストーリーにヒントが隠され、ちゃんと推理できます。



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18:21 : グリム童話(KHM 121 - 160) : comments(0) : trackbacks(0) : チキチト :
グリム童話(KHM159) 『ディーマルシュのほら話』 口承で本領を発揮するであろう物語
短いお話続きます。

タイトル通り、法螺話です。お話に筋はなく、只々、ユーモアを交えたナンセンスが羅列されます。グリム童話で、こういったタイプのお話は、このブログでは扱いませんでしたが(KHM158) 『のらくら者の国の話』に続いてふたつ目でしょう。一部抜粋します。

みんなに、ちょっと話してやろう。あるとき、丸焼きのにわとりが二羽空をとんでいくのが見えたんだ。おなかを空にむけて、背中を地獄にむけて、すごいはやさでとんでいったっけ。...

...かにが、うさぎを追いかけ、屋根の上には、め牛がいたっけ、め牛がそこまでのぼっていったんだ。その国では、蝿が、ここのやぎぐらいの大きさなんだよ。窓をあけな、嘘がとびだしていけるようにな。

描写を追っていくと、確かに面白い情景が思い浮かびます。しかしこの物語の本当の面白さは、口承であった頃に発揮されていたのではないでしょうか。語り部の抑揚や語り口があってのものだと思います。いわゆる話芸があってのものだと思います。

そんなわけなので、読書に使っている、この『語るためのグリム童話』の本領が発揮される時です。



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18:22 : グリム童話(KHM 121 - 160) : comments(0) : trackbacks(0) : チキチト :
グリム童話(KHM155) 『嫁えらび』 結婚相手に求められていること
短いお話続きます。

年頃の、ある、ひつじ飼いの男が、となり村の三人姉妹の、いずれかを、結婚相手に選ぼうとするのですが、彼女たちは、それぞれに魅力的で、にわかには決められません。

そこで、母親に判断を仰ぐと、母親は、その三人姉妹を、家に招待して、チーズを食べさせれば、誰が結婚相手にふさわしいか分かるというのです。そして母親は、ナイフで切り分けるチーズの皮の扱いに注意しなさいと言いました。



一般的な日本人には、皮付きのチーズをナイフで切り分ける作業など、体験したことがないでしょうから、始めは、何が述べられようとしているのか、今ひとつピンとこないかもしれません。しかし描写を追っていけば分かることです。

長女は、皮なり食べてしまいました。次女は、ナイフで皮を厚く削り、皮にたっぷりと食べられるところを残したまま捨ててしまいました。三女は皮を薄からず厚からず上手にナイフで切り分けました。

結果は、三女が結婚相手として選ばれます。ひつじ飼いは、彼女と結婚して、満足に暮らしましたと物語は結ばれます。



ここでは、単純に、大雑把な長女と次女が、結婚相手の選択肢から外されたものと考えればよいのでしょうか。長女と次女の所作から、彼女ら自身の大雑把な性格を読み取ったものと解釈しました。これらの性格が、必ずしも悪いところとは決めつけられませんが、物語ではそうなっています。

また、話は変わりますが、民話に多い、末子成功型のお話にもなっていますね。



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18:30 : グリム童話(KHM 121 - 160) : comments(0) : trackbacks(0) : チキチト :
グリム童話(KHM153) 『星の銀貨』 本物の信心にもたらされた福音
短いお話続きます。

衣食住、生きるための具体的なものを、ほとんど持たない小さな女の子は、それでも、自分の持つわずかなものを、困っている人に出会えばあげてしまいます。そう、彼女は、信心だけは有り余るほど持っていました。

そして、とうとう、持っているものの最後のひとつである、自分の着ている肌着さえあげてしまいます。しかし、全てを失った時に、奇跡が起こります。星が降り注ぎ、それは全て銀貨に変わります。



この、わずかである自分の持てるものさえ、さらに困っている人に対して施すという実践は、聖なることとの関係で、世界共通の価値観を表現しています。

東洋では、その行為自体に救いを見出しますが、西洋では、神さまからの福音がもたらされます。表現のされ方が、洋の東西でニュアンスを変えますが、説明を尽くせば、根は、同じことを表現したものと考えていいでしょう。

人は生活に困ると、奪い合いを起こしがちです。それゆえに、こういった心根の持ち主は、物語の中だけと思われがちです。しかし、まれに、現実の世界にも登場します。彼らは、存在するだけで奇跡です。



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18:27 : グリム童話(KHM 121 - 160) : comments(0) : trackbacks(0) : チキチト :
グリム童話(KHM152) 『ひつじ飼いの男の子』 空想を現実に生成させるということ
短いお話続きます。

むかし、あるところに、ひとりの羊飼いの男の子がいました。この子は、どんな問題にも賢い答えをするので、広く知られていました。

王さまは、それを信じがたく思い、この子を呼んで、もし問題に答えられたら、城に住まわせ、自分の子供のように扱うことにしました。



王さまは、問題を三つ出しました。男の子はそれを全て解いてしまいます。それは、そのままでは答えを出すことのできない問題を、問題の切り口を鮮やかに転換させて、誰しも想像できなかった答えを導くというものでした。ある意味、頓智を働かせたようなものですが、王さまは、納得せざるを得ません。

男の子の空想力が、群を抜いています。空想には核があります。しかし、その核に形を与えるべく、現実へと生成させる力がなければ、空想は意味をなしません。しかし男の子は、その力にも優れているのです。男の子がしていることは、ある意味、創造性に関わることといってもいいでしょう。



こうして、男の子は、王さまの城で、大切に扱われることになりました。



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18:28 : グリム童話(KHM 121 - 160) : comments(0) : trackbacks(0) : チキチト :
グリム童話(KHM151) 『ものぐさ三人息子』 三人兄弟の相続の分配に関する、二、三の考察
短いお話続きます。

ある王さまに、三人の息子がいました。王さまは、齢を重ね、いずれ来る死に備えて、王位を、誰に譲るのかを、考えているのですが、その判断基準がおかしいのです。それは、彼らの中で、一番ものぐささを示したものに王位を譲るというものです。つまり愚かなものに王位は譲られます。

しかし物語を読み進めていくと、なぜ、より、ものぐささを示したものが、王位にふさわしいかが分かります。自分の命より、国のことをどれだけ優先するかを判断する指標が、王さまにとっての、ものぐささというものでした。

それを知ってか知らずか、三人兄弟は自分のものぐささをアピールし合います。そして末の弟に王位は譲られました。



これまでも、三人兄弟の、相続に関するお話はありました。(KHM63)『三枚の鳥の羽』(KHM70)『三人の幸運児』(KHM124)『三人兄弟』などが、これに当たるでしょうか。



三人兄弟のお話は末子が成功するというパターンが多いのですが、それに沿ったお話なら『三枚の鳥の羽』でしょう。

このお話も、一見愚か者の末子が、王位を継ぐわけですが、物語を読み進めていくうちに、末子の、愚かであることの影に隠された、他の優れた属性が明らかにされ、なぜ末子が、より王位を継ぐのにふさわしいかが物語られます。



一方、『三人の幸運児』、『三人兄弟』では相続するものが王位ではなく、家や物でした。そして、これらの物語では、注目してよい点だと思うのですが、多くの、末子が成功するお話の中で、実質的に平等に相続の分配が行われているのです。

整理すると、そこから導かれるであろうものは、民話において、相続に関する兄弟の分配は、王位などの大きなものを除くなら、平等に扱われる、という法則です。

これは、民話の根底に潜んでいる、民意の表象のひとつなのではないでしょうか。



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18:25 : グリム童話(KHM 121 - 160) : comments(0) : trackbacks(0) : チキチト :
グリム童話(KHM149) 『天井の梁』 色々な受け取り方ができるであろう短い物語
グリム童話、通し番号でずっと追っていますが、前話あたりから、短いお話が続きます。そして、その、用いられている短いシーンから、受け取られるものは、人それぞれなのではないでしょうか。



この物語は、ある魔術師が、大勢の人々の前で、その魔術を披露していると、四つ葉のクローバーによって賢くなった、ひとりの娘にそれを見破られてしまいます。すると、人々の見ている幻は解けてしまいました。

この幻が、タイトルにもなっている、おんどりのかついでいる、重いであろう、天井の梁です。実は、その天井の梁は、麦わらに過ぎませんでした。魔術師は、インチキを見破られて、人々の前から追い払われます。魔術師は復讐を誓い去っていきました。



時は経ち、あの娘の結婚式がとり行われます。ここで、魔術師という記述はありませんが、おそらく彼の復讐がなされているのでしょう。娘は教会に行く途中、川を渡るためにドレスをたくし上げて、その川を渡りました。

ところが、その川は幻でした。娘は、気づくと、麦畑の中を、ドレスをたくし上げて歩いているのでした。娘は、人々に、笑われ、罵られ、追っ払われてしまいました、と物語は結ばれます。



こんな調子なので、記事の冒頭で述べた通り、色々な受け取り方ができるでしょう。ユーモアを含んだナンセンスととる人もいるでしょうし、教訓じみたものを汲み取ろうとする人もいるでしょう。


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18:11 : グリム童話(KHM 121 - 160) : comments(0) : trackbacks(0) : チキチト :
グリム童話(KHM148) 『神さまのけだものと、悪魔のけだもの』 正義の狼
神様は、すべての動物を作ると、狼をお供にしました。ただ、やぎを作り忘れ、それを悪魔が作ったことになっています。題名になっている、神様のけだものとは狼のことで、悪魔のけだものとはやぎを指します。

(KHM05)『狼と七匹の子やぎ』に代表されるように、グリム童話第一巻では、結僕民族にとっての、家畜を荒らす狼は悪者として、やぎなど、人に家畜として飼われる動物は、正義として描かれてきました。それとはどうも趣が違います。やぎは、木を荒らす害獣として描かれ、狼が、それに対する守護者のような描写がなされます。



また、やぎのしっぽが短いのは、悪魔がちぎってしまったからであり、物語、結びでは、悪魔がやぎの目玉を繰り抜いて、自分のそれと交換したため、悪魔はやぎの姿をとるとも述べられ、やぎと悪魔の親和性が示されます。

確かに、キリスト教圏では、その先行宗教から由来する、やぎを、悪しきものの象徴とするイメージが、残っているようです。そのへんの事情が、物語に影を落としているのかもしれません。

それが、原話をあまりいじらない、グリム童話第二巻の編纂方針のせいで、そのまま、このような物語になったことも考えられます。


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18:31 : グリム童話(KHM 121 - 160) : comments(0) : trackbacks(0) : チキチト :
グリム童話(KHM146) 『かぶら』 幸運とは導けないもの
むかしあるところに、ふたり兄弟がいて、共に王さまの軍隊に入っていました。おそらく軍隊での働きが違うのでしょう、兄は金持ちでしたが、弟は貧乏でした。

弟は、なんとかして貧乏から逃れたいと思い、軍服を脱いで百姓になります。わずかばかりの畑を耕し、かぶらの種をまきました。すると、そのかぶらは、みるみる大きくなり、成長をやめません。その大きさは、二頭の雄牛でなければ引けないほどの大きさになります。

弟はこのかぶらを持て余しまします。そして、色々と考えました。売ったところでどれほどのお金になるかもしれず、自分で食べるには大きすぎます。それなら、王さまに、贈り物として、献上してしまおうということになりました。



王さまはこのかぶらを見て驚きます。そして王さまは弟に、おまえは幸運のもとに生まれてきたに違いないと声をかけました。

それに対して弟は、自分の貧乏な身の上を話し、決して幸運な存在でないことをときます。そして、それに比してて金持ちの兄のことを、それとなく話しました。

すると王さまは、弟を気の毒に思い、贈り物をして、兄とは比べ物にならないほどの金持ちにしてしまいました。



兄の嫉妬が始まります。弟が、あんなかぶらひとつで、ひと財産を築いたのだからと、兄は王さまにたくさんの贈り物をして、弟以上の見返りを期待しました。すると、なんと、その見返りは、弟が王さまに献上したかぶらになってしまうのでした。

王さまに、悪意があったのではなく、そもそも王さまの価値基準が、まったく下々の者とは違っていたというだけの話でしょう。嫉妬に狂った兄は、弟を殺そうと計画します。弟は殺されかかりますが、偶然居合わせた、学生を身代わりにして難を逃れます。



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弟の幸運は、大きなかぶらのことにしても、兄の嫉妬から逃れる手段にしても、偶然が大きく関わっています。弟は、そこに、少しの知恵を働かせただけです。幸運とは、このお話のようなものなのかもしれません。ずる賢い兄がそうしたように、導こうとして導けるものではないのです。

ならば、頓珍漢とも思える、価値判断をした王さまですが、あながち、弟の幸運をたたえたその見識は、間違っていなかったのかもしれません。というか、この結末を導くトリガーになっているのは、王様自身なのですが...。ユーモアたっぷりに語られます。


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18:29 : グリム童話(KHM 121 - 160) : comments(0) : trackbacks(0) : チキチト :
グリム童話(KHM144) 『ろばの子』 グリム童話第二巻の編纂方針の是非
ある王さまと女王は、豊かに暮らしていました。しかし、子どもだけが授かりません。彼らに残された願いは子どもを得ることだけでした。そんなふたりの間に、やっと子どもが授かります。

しかし、果たしてそれは、ロバの姿をしていました。女王は悲しみました。しかし王さまは、自分の子供を、れっきとした王子として育てます。そのおかげで王子はすくすくと育ちます。その王子が主人公です。そして、彼の成功譚が語られます。



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それはそうと、この物語、表現が雑に感じられました。そのおかげで、いまいち物語に溶け込めません。途中、王子は、順次、完全な人間になっていくような展開をしますが、描写が足らず、表現すべきものが、なされていないような印象です。

おそらく、これは、グリム童話第二巻の編纂方針に則って、改定の際に、あまり、口承である原話に、修正が加えられていないものと思われます。もう少し手を加えて、書かれた物語としての体をなしてもいいのでは、といった思いを持ちました。


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20:08 : グリム童話(KHM 121 - 160) : comments(0) : trackbacks(0) : チキチト :
グリム童話(KHM143) 『旅に出る』 言葉の両義性を描いた物語
むかし、あるところに、ひとりの貧しい女がいました。彼女には、ひとりの息子がいて、息子は、始終、旅に出たいと口にしていました。女には息子に持たせるお金など無く、息子は、自分でお金を工面するべく、「たくさんじゃない、たくさんじゃない」と言って歩き始めます。

しばらくすると、何人かの漁師に出会います。そして、彼らは、この息子の言葉を聞くと、怒ってしまい、殴りかかってきます。なぜなら、漁師たちが網を上げると、確かに魚はたくさんじゃなかったからです。そして息子は、道中、言って歩く言葉を、漁師たちに変えさせられてしまいました。彼らは「たくさん捕まえろ、たくさん捕まえろ」というように息子に言って聞かせます。

息子が「たくさん捕まえろ、たくさん捕まえろ」と言って、しばらく歩いて行くと、首吊り台がありました。すると人々に、息子は、またしても、何発か食らいました。なぜなら、息子の言葉が、人々に、”悪い人間を、もっと捕まえろ、まだ十分じゃない”と言っているように受け取られてしまったからです。息子はまたしても、道中、言って歩く言葉を、変えさせられてしまいました。

こんな調子で、同じようなことが、繰り返され、息子は散々な目に会います。やっとの思いで母親のもとに帰ると、息子は、もう二度と、旅に出たいなどと口にしなくなりました、と物語は結ばれます。



言葉というものは、どう受け止められるかわからないという、戒めの物語であるかと思います。日本のことわざなら、”口は災いのもと”などが、これらの状況をよく語っていると思います。


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18:40 : グリム童話(KHM 121 - 160) : comments(0) : trackbacks(0) : チキチト :
グリム童話(KHM136) 『鉄のハンス』 内在する強い道徳性、共感性
むかし、ひとりの王さまがいました。王さまの城の近くには、大きな森があって、たくさんのけものがいました。

王さまはある時、狩人に、森へ鹿を仕留めてくるよう言いましたが狩人は帰ってきませんでした。王さまは次の日、その狩人を探してくるように、さらにふたりの狩人を森におくります。しかし彼らも帰ってきませんでした。

三日目には、王さまは多くの狩人を森に向かわせて行方知らずとなった狩人たちを探させます。しかし、狩人たちは、ひとりとして帰ってきませんでした。人々は恐れて、もう誰も森に入るものはいませんでした。



時がたち、ある時、見知らぬ狩人が王さまに召し抱えてもらうためにやって来ました。そして彼は、あの森に迷い込んだ狩人たちの捜索を志願します。

狩人は、猟犬と共に森に出かけますが、途中、沼に行く手を遮られて、前に進めません。すると沼から腕が出てきたかと思うと、猟犬を引きずり込みました。狩人は急いで城に引き返し、仲間を連れてきて、沼の水を汲み出させます。

すると沼の底には、さびた鉄のような大男が横たわっていました。彼が、タイトルにもなっている、鉄のハンスです。彼は実はとある国の王さまです。呪いをかけられて、このような姿にさせられているのでした。彼は、彼を見つけた狩人に捕らえられて、城の檻に入れられてしまいます。



あるとき、王さまの歳若い王子が、ひょんなことから大男に出しぬかれて、檻の扉を開けさせられ、森へと連れ去られてしまいます。もう父母の元へは帰れません。ただし、結果として大男を助けた王子は、大切にされます。

しかし、王子には試練が与えられました。それは、森の中にある、とある泉を、けがれから守ることでした。しかし王子は、その試練を果たせませんでした。

試練を果たせなかった王子は、大男の元から追放されます。彼は世間に出て貧乏が、どれほど辛いかを、知ることになるでしょう。ただし大男は、王子に、困ったことがあれば森に来て”鉄のハンス”と呼べば力になると約束しました。

彼は、王子の身分ゆえに、これまで何もしてこなかったので、何も身につけてはおらず、裸一貫で食い扶持を求めます。そして、王子は、とある王さまのもとで下働きをすることになりました。



これで、いちよう、主要登場人物である、鉄のハンスと、王子の設定は、述べられたと思います。そして、これに続く、王子の紛れ込んだ王国での、彼の誠実で愚直な人柄を反映した活躍が語られます。

王子の、この王国が仕掛けられる戦争での活躍や、王女とのロマンス。そして、それに続く王女との結婚。結婚式での両親との再開。さらには、鉄のハンスの呪いが解けて、彼が、たくさんのお共をつれた立派な王さまとなり、これら、全ては、王子が導いたことというお話に、物語は収束していきます。呪いの解けた鉄のハンスは持っている財産のすべてを、この王子に授けました、と物語は結ばれます。



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民話には、時々、この物語のような、スケールの大きい、ファンタジックな物語が登場しています。また物語からは、強い道徳性を感じさせるテーマを汲み取ることができます。それは、説教屋が用いる、寓意的意図のある道徳とはまったく違ったものです。そして、読者を惹きつける共感性も高い物語です。

タイトルの一部にもなっている、グリム童話でお馴染みのハンスですが、物語の主人公ではありません。物語の象徴的存在として、タイトルに用いられているのでしょう。

また、その存在は、グリム童話第一巻での、愚か者のハンスの面影を、微塵も感じさせません。この物語のハンスは、数々の試練をくぐり抜けてきたであろう、英雄と言った風格さえ漂わせています。

愚か者というイメージが強い、ハンスというキャラクターが、物語に登場することで、何か物語に受け継がれているものがあるとするなら、主人公の王子のキャラクターにそれを感じとることができるかもしれません。

ただし、それは、グリム童話第一巻での、狂気さえ感じさせる、愚か者のハンスとしてではなく、第二巻での、誠実さや、愚直さがまさるハンスとしてです。

また、これは想像ですが、もし、鉄のハンスの若かりし頃が描かれるなら、彼こそが、最も、誠実で愚直なハンスというキャラクターを醸しだしたのではないでしょうか。彼が目をかけた、王子という存在は、彼にとっての分身であったのかもしれません。



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18:23 : グリム童話(KHM 121 - 160) : comments(0) : trackbacks(0) : チキチト :
グリム童話(KHM134) 『六人の家来』 グリム童話各巻、民話の原型に近いのは?
むかし、あるところに、歳をとった女王がいました。しかし彼女は魔女でした。彼女は、日々、どうしたら、人間どもを破滅させることができるかを考えています。

そして彼女には、大変美しいけれど、傲慢な王女がいました。女王は王女に求婚するものに、課題を与え、それをこなすことができないものは、容赦なく首を落として殺していました。

そこへ、とある国の王子が、その課題を解いて、王女と結婚しようとするのですが、当然父親である王さまは、この、息子を死に行かせるような行為に反対します。

しかし、王子は、それ以来、病の床につき、今にも死にそうです。しかたなしに王さまは、王子に運試しと称して、女王の元へ向かうことを許しました。その道中に王子は六人のすご技を持った六人の家来をつけてゆきます。



お話の経過や、結末については、ここで述べるのはよします。なぜなら、この物語、(KHM52)『つぐみひげの王さま』と、(KHM71)『六人男、世界をのして歩く』のお話を結合させたような印象の物語なのです。

『つぐみひげの王さま』の王さまは、そのまま、この物語の王子と重なり、両物語の求婚される王女は、傲慢な気質というところが共通です。

また『六人男、世界をのして歩く』の六人のすご技を持った登場者は、そのまま、王子の六人の家来と重なります。



グリム童話第一巻と、第二巻では、編纂のされ方が違っています。同じ根を持つであろう物語に出会った時、どちらが、お話の原型に近いのかという話をしてみます。

パターンとして、グリム童話第二巻の物語からは、グリム童話第一巻では二つの物語に分離されているように思われ、第一巻の二つの物語からは第二巻では結合されているように思われるお話が多く見受けられます。どちらが正しい見方なのかは、今となっては知りようがありません。

しかし、グリム童話第二巻の、語り部の信頼度を考慮すれば、前者の考えが有利となるのでしょう。それに、これまで読んできた、すべてのグリム童話の物語の印象から言っても、第一巻の物語たちは、長いお話の分離であるような印象を受けます。比較的大きな改訂のある、グリム童話第一巻の物語を、初版まで遡ると、その印象はさらに増します。



例えば、グリム童話第一巻の(KHM04)『こわがることを習いに出かけた若者の話』は、第二巻の(KHM121)『何もこわがらない王子』を参考にして第一巻初版の『ボーリングとトランプ遊び』に肉付け脚色されたものではないのかと思っています。

またグリム童話第一巻の(KHM20)『ゆうかんな仕立て屋さん』(KHM22)『なぞなぞ』のそれぞれのお話も、第二巻の(KHM114)『かしこいちびの仕立て屋』が分離し脚色されたもののように感じられ、よりお話の原型に近いのは、第二巻の物語なのではではないかと思っています。

それに、全体的に、グリム童話第二巻の物語たちが、おとなしめに感じられるのは、原型に近いものを、そのまま採用し、脚色が少ないためなのではないかとも思っています。

グリム童話第一巻と第二巻、どちらが民話の原型に近いかを述べてみましたが、グリム童話第一巻は、面白みで言えば優っているように思います。



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18:42 : グリム童話(KHM 121 - 160) : comments(0) : trackbacks(0) : チキチト :
グリム童話(KHM133) 『おどってすりきれた靴』 なぞかけの物語グリム童話第二巻版
むかし、あるところに王さまがいて、王さまには、美しい十二人の王女がいました。城の大広間には、王女たちのベッドが並んでいて、王女たちが眠りにつくためにベッドに入ると、王さまは、大広間の扉を閉め鍵をかけて出入りを出来無くしています。

それにもかかわらず、朝になると、王女たちの靴は、どこかで、さんざんダンスをしてきた後のように、擦り切れているのでした。王女たちが、どこでダンスをしてくるのかは、誰にも分かりませんでした。

とうとう王さまはおふれを出します。王女たちがどこでダンスをしてくるのか探り当てたものに王女のひとりを嫁に出し王位も与えることを約束します。ただし、申し出たもので、三日三晩うちに、探り当てることができないものは、その者の首をはねることにしました。

しかし何人もの王子が挑戦したにもかかわらず、彼らは皆、命を落としました。



その頃、怪我をして、勤めができなくなった、ひとりの兵隊が、王さまのおふれを聞いて、町に向かっていました。この体たらくでは、らちが明かないので、王さまにでもなってみようかと思ってのことです。

そして、彼は、道中、ひとりのおばあさんに出会い、このなぞに答えるための重要な方法と、それに必要な、身を隠すことのできる不思議なマントを手に入れます。

その方法とは、兵隊に出されるであろう、眠る前に王女様が持ってくる、ワインと称した眠り薬を飲まないことと、飲んだふりをして、ぐっすり眠ったふりをすることでした。あとは、王女たちが出かけていく後をつけていくために、不思議なマントで姿を隠して、王女たちのあとをついていけば、なぞは解けるだろうとのことでした。



兵隊は、王さまに申し出て、なぞ解きが始まります。果たして、おばあさんの言うとおりにすると、すべてがうまくいきます。王女たちは、ベッドのある大広間から、秘密の階段で降りていけるところにある地下のお城で、十二人の王子と夜更けまでダンスをしていたのでした。なぞは解けます。

兵隊は、どの王女を嫁にとるかと王さまに聞かれ、もう自分は歳も若くないから、一番上の王女と結婚すると答えました。そして、その日のうちに、結婚式はとり行われました、と物語は結ばれます。



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民話によくある、なぞかけの物語です。実際には、どこにも、この物語が、なぞかけであるという記述はありませんが、読んでみれば明らかです。

兵隊が、城に向かう途中、出会うおばあさんは、魔女を思わせますが、そういった記述はありません。しかし、これまで、グリム童話第二巻で見てきた通り、こういうお話の展開の時には、なにか不思議なアイテムを彼女から授かり、主人公は幸運を得ています。この物語では不思議なマントがそれに当たリます。

物語の舞台は、終盤、地下世界のお城で展開され、その世界の背景も金、銀、ダイヤモンドの並木道など、ファンタジックに彩られています。これらの、非日常世界で得たものを、主人公は謎解きの証拠品としています。


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18:49 : グリム童話(KHM 121 - 160) : comments(0) : trackbacks(0) : チキチト :
グリム童話(KHM132) 『きつねと馬』 狐が用いるごまかしという名の知恵について
歳をとって役立たずになった馬が、主人にお払い箱にされるところを、ズル賢い狐が知恵を絞って馬を助けます。

馬は、主人に、ライオン一頭でも引っ張る力があれば、以後も手元に置いて飼うのだがなと言われるわけですが、馬にその力は、すでにありません。馬が狐に相談します。

すると、狐は、ライオンのもとに出向き、思わせぶりに、自身の体を、馬のしっぽに縛り付けるならば、いつもより、ゆっくりとたいらげることができるだろうなと持ちかけます。

ライオンは同意し、狐に実行させました。しかし、その縛り加減が問題です。狐は、ライオンが動けなくなってしまうほどに、きつく縛り上げてしまうのでした。

馬は難なく主人のもとにライオンを引きずっていくことができました。ここまでに至った経緯を知らない主人は、馬を死ぬまで大切にしましたと物語は結ばれます。



民話で、狐という存在が、果たす役割は、たいてい、頭を使った、ごまかしの提供でしょう。まあ、良くも悪くも、賢さの具現者ですね。

その際、手段を選ばない、思考の自由さには、目を見張るものがあります。しかし、ズルも混じているので、種明かしがされれば、人によっては、すんなりと受け入れることができないかもしれません。しかし、結果が良ければ、良しとする考えもありますよね。


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18:26 : グリム童話(KHM 121 - 160) : comments(0) : trackbacks(0) : チキチト :
グリム童話(KHM129) 『腕利き四人兄弟』 グリム童話で用いられる主要職業を持った四人兄弟
四人兄弟の父親は、息子たちに独立をうながします。兄弟はそれぞれの道を精進するため散っていきますが、約束の期日を決め再び集うことを約束します。

兄弟は、それぞれに師匠を見つけ、上の兄弟から順に、泥棒、星のぞき、狩人、仕立て屋になりました。グリム童話で主に用いられる登場人物の職業が連なっています(星除きは初めての登場ですね)。そして、それぞれは、その道の達人になりました。

約束の日が来て四人は集い、それぞれ身につけた技を父親に見せました。父親は大変満足し、そのうちに、兄弟の技が、世のために役立つ時が来るであろうと喜びます。



ある時、国の王女が竜にさらわれ、大騒ぎになります。四人の兄弟は、今こそ自分たちの力を見せる機会だとして、王女を救い出す決心をしました。そして四人は、それぞれ、その恐るべき力を発揮して、見事に王女を救い出します。

王さまは大変喜び、四人の中のひとりに、王女を妻として与えようとします。誰が娶るかは兄弟に任せるとのことです。そのことで、兄弟に争いが生まれました。

すると王さまは仲裁にあたります。誰もが同じ権利を持っている。ゆえに誰とは決められない。ならば誰にも与えないでおこう。その代わりに、国の半分を与えることにしようと。

兄弟は仲違いをやめて、兄弟そろって父親と共に、幸せに暮らしましたと物語は結ばれます。



四人兄弟の、それぞれの職業を持った登場人物には、おおむね、ある一定のキャラクターが割り当てられてきました。しかし、この物語では、それぞれに割り当てられてきたキャラクターは発揮されません。形式上、それらの職業が並べられているだけという印象です。

個性豊かな、それぞれのキャラクターが発揮されていたら、お話はまとまらないのでしょうが、可能なら、そんな物語も、読んでみたい気がします。


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19:04 : グリム童話(KHM 121 - 160) : comments(0) : trackbacks(0) : チキチト :
グリム童話(KHM127) 『鉄のストーブ』 口承の物語の上手な活字化について思うこと
むかし、まだ、願い事がかなった頃、ひとりの王子が、年をとった魔女の呪いで、森の中の大きな鉄のストーブに閉じ込められ、何年も経ちましたと物語は始められます。



あるとき、森で、ひとりの王女が迷い、九日間というもの歩きまわるうちに、鉄のストーブの前にたどり着きます。すると、ストーブの中から聞こえる声が、ある約束を果たすなら、すぐにでも城に帰ることができるように助けてあげようというのでした。

約束とは、城に戻って、ナイフを持ちだし、再びここに来て、この鉄のストーブを削って穴を開けてくれというものでした。さらに、ストーブの中からは、結婚しようとの告白がなされます。

王女は、誰とも知れない人との結婚なんて、と思いましたが、背に腹は代えられず、約束することにします。

すると、すぐに、王女には、どこからか道案内の者が現れます。彼は一言も口を利きませんでした。しかし、ストーブの中の声が言う通り、無事、城に帰ることができました。



その一部始終を、王女は王さまに話すと、王さまは心配して、王女の代わりに、村の美しい娘を代わりにつかわします。しかし、ストーブを削ることができませんでした。

別の美しい娘を使わしても結果は同じでした。王女でなければならないのです。ストーブの中からは、王女をよこせと声がします。ストーブの中の声は、約束通り王女がこないなら、しまいには、国中をめちゃくちゃにするとまで言い出しました。王女はやむなく約束を果たさねばなりませんでした。



王女は森に出向き、ストーブを削り始めます。すると、難なくストーブを削られて、王女は中に美しい王子がいるのを発見します。王女は、すっかり気に入ってしまいます。王女は、父に知らせたくて、一度城に戻りたいと王子に話しました。王子は条件付きでそれを許します。

その条件とは三言以上話してはならないというものでした。しかし王女は、父親である王に三言以上話してしまいます。するとストーブは、どこか遠くに飛んでいってしまいました。しかし、そこで、王子の呪いは解けています。



さて、王女の王子探しが始まります。王女は、森の中でカエルに出会うと、王子の消息と共に、そこへたどり着くための道具を得ます。そして王女は、王子のいる城にたどり着きます。しかし王子はすでに別の娘と結婚しようとしていました。王女は、王子を取り戻すため、下働きとして城に潜り込みます。

この城の娘は、眠り薬など使い、王子に王女の存在を、たくみに隠そうとします。しかし。ついに王子が、王女を見出すと、物語は大団円に向かって収束します。森のカエルは、魔法で姿を変えられていた、どこか別の国の王子でした。王子と王女は結婚します。ふたりは王も交えて幸せに暮らしましたと物語は結ばれます。



グリム童話の、様々なモチーフで彩られた物語と言っていいでしょう。ユーモアあり、ファンタジックな描写あり、ロマンティックな展開あり、もりだくさんです。

また、口承の物語の、上手な活字化がなされている代表例にあげてもいいのではという印象です。大抵の物語は、この段階で、話のつじつまを合わせるためなど、説明が多くついたりするものですが、この物語に関して必要最小限で効果をあげているように感じます。

説明が少ないことで、お話の輪郭はぼやけてしまいますが、それが返って行間を豊かにしています。説明はこれぐらいでいいのではないでしょうか。

また、終盤、王子と結婚しようとする城の娘が、魔女なのではという思いをいだきました。主人公の王子や、蛙にされていた王子たちは、彼女に魔法で操られていたのではないでしょうか。



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22:43 : グリム童話(KHM 121 - 160) : comments(0) : trackbacks(0) : チキチト :
グリム童話(KHM125) 『悪魔とそのおばあさん』 悪魔のおばあさんが登場するお話について
戦争が長引き、王さまは兵隊に十分な給料を払えず、兵隊たちは暮らしに困りました。ある時、三人の兵隊が、脱走を企てます。そして近くにあった大きな麦畑の中に潜り込み、そこで軍隊が去ってゆくのを待ちました。

ところが、三日三晩経っても、軍隊は動きません。三人は、空腹に耐えかねて、今にも死にそうです。しかし、いま麦畑を出れば、軍隊に捕まり縛り首でしょう。そこへ、悪魔である竜が、麦畑に舞い降ります。

竜は、七年間自分に仕え、その後に自分のものになるなら、三人を、ここから連れ出して助けてやろうと持ちかけます。ただし、七年後に、なぞを出すから、それに答えることができたなら、自由を保証しようと言うものでした。三人は従うよりほかありませんでした。悪魔との契約が成立します。



三人には鞭が与えられます。その鞭は、振ればいくらでも金を出すことができました。三人は贅沢な暮らしをしましたが、七年間はあっという間に過ぎようとしています。

約束の日が近づき、ふたりの兵隊はすっかり沈んでしまいます。けれども三人目の兵隊は朗らかで、くよくよせず、きっとなぞは解けるだろうと楽天的です。



そんななか、三人が座って話していたところへ、一人のおばあさんがやってきます。おばあさんは悲しそうな兵隊を見て、事情を聞きます。そして予言を授けました。彼女は森の中の小屋に、兵隊を一人よこすように言います。助かる方法が見つかるというのです。

そして、三人目の朗らかな兵隊が、そこへ出かけてゆきました。小屋には、一人のおばあさんが座っていました。実は彼女、あの悪魔のおばあさんでした。

おばあさんは兵隊に事情を聞きました。兵隊はすべてを打ち明けます。おばあさんは兵隊のことが気に入って助けてやることにしました。そして、なぞの答えを聞き出す手立てを講じてくれます。

そのおかげで、無事なぞの答えを聞いた兵隊は、約束の七年の日に、悪魔から出されたなぞに見事答えました。悪魔は一声上げてどこかへ飛び去ります。兵隊たちは、あの悪魔からもらった、振るとお金を出せる鞭を使って一生何不自由なく暮らしましたと物語は結ばれます。



この物語で興味深いのは、タイトルにも含まれる悪魔のおばあさんと記述される存在です。彼女は(KHM29)『三本の金髪を持った悪魔』に登場している悪魔のおばあさんと同等の存在でしょう。同じように主人公を悪魔から助けるべく働きます。主人公が悪魔から聞き出さなくてはいけないことを聞くために助けとなるのです。


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22:24 : グリム童話(KHM 121 - 160) : comments(0) : trackbacks(0) : チキチト :
グリム童話(KHM124) 『三人兄弟』 多くの末子が成功する物語の中では変則的な物語
三人の息子を持った父親には、子どもたちに残す財産といえば、先祖から受け継いだ住んでいる家のみです。子どもたちは皆それを欲しがりました。

父親は誰に家を相続させるか、公平を期して考え、子どもたちにそれぞれ修行をさせ、約束の日までに、一番上達したものを跡取りとすると決めました。そして長男は鍛冶屋に、次男は床屋に、末子は剣術の先生になるために修行を積みます。

三人は修行から戻るとその腕を披露します。三人の修行の成果はどれも素晴らしく優劣などつけられないものでしたが、父親は、それでも、末子を跡取りにすると決めました。

しかし、三人は、仲が良かったので、結局一緒の家に住み、それぞれは、競って十分に修行したので、腕前がよく、お金もたくさん稼ぎました。そして歳を重ね一人が病気でなくなると、残ったふたりは大変悲しみ、やはり病気で亡くなってしまいます。三人はそろって同じお墓に埋められました。とお話は結ばれます。



三人の兄弟が競い合います。民話でお馴染みの末子が活躍する物語(末子が幸せを独占するお話)と思いきや、確かに、末子が事を成就しているのですが、そこにお話のウェイトがあるのではなく、三人の兄弟愛が主に語られます。そして、三人が共に幸せを得ています。これでは、未子が活躍する物語とは、分類しづらいのですが、その一類型としてとらえてみました。

こういった、兄弟が競い合うタイプの物語で、このような展開をするお話は、グリム童話第一巻にはありませんでした。これも、グリム童話第一巻と、第二巻の編纂のされ方の違いが、結果として現れているのかもしれません。

グリム童話第一巻と第二巻の編纂のされ方の違いについては、魔法との絡みで(第二版KHM104)『忠実な動物たち』、キャラクターとの絡みで(KHM108)『ハンス・はりねずみぼうや』に少し述べました。よろしければ参照してみてください。


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18:36 : グリム童話(KHM 121 - 160) : comments(0) : trackbacks(0) : チキチト :
グリム童話(KHM123) 『森のおばあさん』 魔女という記述の有無
主人公の若いお手伝いの娘は、主人たちに付き添って、馬車で大きな森の中を走っていました。すると、盗賊に襲われて、いち早く逃げた娘以外の者たちは、皆、殺されてしまいます。娘も、じきに、森で飢えて死んでしまうでしょう。

そんなところに、一羽の白い鳩が現れて、娘の衣食住すべてをまかない、彼女は助かります。

この白い鳩、実は、魔女によって、木に変身させられ、日に、二、三時間だけ鳩に変身できる、とある国の王子でした。鳩である王子は、娘を助けると共に、自身の変身を解くために、しなければならないことを、娘に話して聞かせます。

それによると、娘は、森のおばあさんのところへおもむき、とある指輪を取ってこなければなりませんでした。そして、それを、無事こなすと、王子の変身は解け、王子は自分の身分を明かすと、ふたりは結婚しましたと物語は結ばれます。



この物語のタイトルは、”森のおばあさん”となっていることから、このおばあさん、グリム童話第二巻で時々出てくる、森に住まう、主人公に福音をもたらす、魔女という記述はなされませんが、良い魔女を思わせる、あの存在なのでは、と思いきやそうではありません。すでに述べた通り、とある国の王子を魔法にかけて、木に変身させてしまった悪い魔女です。

ところで、物語をたどっていくと、このおばあさん、物語終盤で、はっきりと魔女であるという記述がなされています。どうも、グリム童話では、魔女という記述がなされた場合、それは悪い魔女を指していると言っても過言ではないようです。主人公に、福音をもたらす、あのおばあさんは、魔女を思わせる記述はなされますが、彼女を指して、決して魔女という言葉は用いられないのです。


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18:29 : グリム童話(KHM 121 - 160) : comments(0) : trackbacks(0) : チキチト :
グリム童話(KHM122) 『キャベツろば』 森のおばあさんという謎の存在
主人公である、明るく朗らかな狩人は、仕事で森を散策していると、魔女を思わせる(魔女という記述は一切ありません)おばあさんから物乞いをされ、その際に、あげられるだけのお金を与えて助けると、お礼に予言を授かります。

その予言とは、この先で鳥たちがマントの奪い合いをしているから、鳥たちの真ん中に、猟銃を撃って鳥たちを追っ払い、そのマントを手に入れ、その際、一羽だけ猟銃の弾にあたって鳥が落ちてくるから、その鳥の心臓を切り取って飲み込みなさいというものでした。

そのマントは、肩にかつげば、心に思ったところへ、瞬時に移動できる魔法のマントであり、その鳥の心臓を飲み込めば、朝起きるたびに、枕の下に、金貨を得ることできるであろうとのことでした。果たしてその通りになります。



森で出会うと、富をもたらしてくれる、魔女を思わせる、不思議なおばあさんの登場は、これで二度目です。始めは(KHM103)『おいしいおかゆ』で登場しています。

『おいしいおかゆ』では、主人公の娘が、おばあさんから、呪文を唱えると、いくらでもおかゆを炊いてくれる、不思議なお鍋をもらって、日々の、貧しさ、ひもじさから解放されています。このお鍋、ある意味、魔力のこもったお鍋です。

この『おいしいおかゆ』は、グリム童話第二巻、序盤のものですが、私はそこに、グリム童話第一巻にはない、グリム童話第二巻の特徴として、魔法の肯定的な使用を考えてみました。そして、この物語を読んで、その考えを、さらに強めた次第です。

ちなみに、もうひとつの福音である、鳥の心臓を飲み込むと、朝起きるたびに、枕の下に金貨を得ることができるという展開は、グリム童話第一巻の(KHM60)『ふたり兄弟』にもみられました。



さて、狩人は、そのうちにお金持ちになり、お金を役立てるために、両親に別れを告げ、旅に出かけます。すると今度は、はっきりと魔女との記述がある、悪い魔女に出会うのでした。

魔女は、お手伝いと、一人の美しい娘と、三人でお城に暮らしていました。狩人は、美しい娘にひかれて城に逗留することを決めます。そして、狩人は、娘を愛しました。ところが娘は、母親である魔女に逆らえず、そそのかされて、狩人を騙します。そして狩人は、飲み込んでいた鳥の心臓と、魔法のマントを、奪われてしまうのでした。



物語は、狩人の、この苦境を挽回すべく、魔法のマントで移動した先で、狩人に、またまた新しい、魔力が込められているであろうと思われる不思議なアイテムを用意します。それがタイトルにもなっている、食べるとロバに変身するキャベツと、その変身を解くキャベツでした。

このキャベツを使って狩人は、お城の住人をロバにして、それぞれに罰を与えることにしました。三人に与える罰は、それぞれ異なります。魔女には、食事を与えず、鞭で打つことにします。娘には、変身をさせただけで、食事を与えることにしました。それを水車小屋の主人に任せます。



やがて、魔女の死の知らせを受け取ると、狩人は、残りのふたりが不憫に思えてきて、彼女らの変身を解くことにしました。

そして、変身を解かれた娘は、反省して、狩人に魔法のマントを返し、飲み込んだ鳥の心臓もすぐに吐き出すと言いますが、狩人は、それには及ばないと言いました。娘には、自分の妻になってもらおうと思うからと、物語は結ばれます。



悪い魔女が成敗される展開は、民話でおなじみですね。この物語では、はっきりとした記述はありませんが、それを匂わせる、良い魔女と思われる森のおばあさんという存在が、対比で登場しているところが注目です。

また、魔女の娘は、やはり魔女であるとした場合、その善悪は、心がけ次第であることが、娘のあり方を通して語られているのではないでしょうか。魔女イコール悪の印象の強い、グリム童話第一巻とは違うところです。

さらにまた、現代で好意的に描かれる描かれる魔女は、ひょっとしたらこの森のおばあさんのような存在が発端にあるのかもしれませんね。


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18:43 : グリム童話(KHM 121 - 160) : comments(0) : trackbacks(0) : チキチト :
グリム童話(KHM121) 『何もこわがらない王子』 こわがらないことの美徳を語った物語たち
(KHM04)『こわがることを習いに出かけた若者の話』と、タイトルもモチーフも類似性のある物語です。元は同じ話から発展してきたことが予想されます。呪いのかけられた城や、その中で、ボーリングをする場面や、城の呪いを解いたあかつきには、主人公が、王女と結婚するところなど、中盤から終盤にかけて、物語のパーツも同じものが用いられています。

二つの物語の違いは、『こわがることを習いに出かけた若者の話』の主人公は、怖がることを全く知らず、結びで、ようやくそれを知るという展開ですが、この物語の主人公は、怖がることを、知ってか知らずか、気絶さえするのに、最初から最後まで、恐怖を態度に現しません。必然的に物語が表現するものが変わってきます。

『こわがることを習いに出かけた若者の話』が、途中、英雄譚のような様相も表しますが、最終的に笑い話になったのに対し、この物語は、全体を通して英雄譚のような様相を呈しています。



また、『こわがることを習いに出かけた若者の話』の、グリム童話初版でのことを述べるなら、タイトルが、『ボーリングとトランプ遊び』となっている通り、『こわがることを習いに出かけた若者の話』の一部が語られるに過ぎない短い物語です。このお話に様々なエピソードが加わったものが、改訂で編纂された『こわがることを習いに出かけた若者の話』、および第二巻の、この物語なののかもしれません。

または逆に、グリム童話第一巻での採録先の信頼性の乏しさから言えば、元のお話が、この第二巻の『何もこわがらない王子』であり、第一巻の『ボーリングとトランプ遊び』の物語は、元のお話の一部である可能性や、『こわがることを習いに出かけた若者の話』は、グリム童話第一巻の編纂の方針上、元のお話に加筆修正が行われた可能性もあるでしょう。


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