『チャーメインと魔法の家』 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 徳間書店
2016.10.10 Monday
ダイアナ・ウィン・ジョーンズの本の面白さはどこにあるのでしょう。いっけん子供向けのファンタジーに見えますが、大人でも読めてしまうのは、テーマが正義のようなものを扱っているのはいいとして、決して子供の本にありがちな、安直な結末には至らないからだと思います。
読みようによっては、読者の年齢を問わないそのスタイルは、J.R.R.トールキンが言うような優れたファンタジーに共通する特質を持っているとも言えます。
また、彼女のファンタジーは、楽しさの追求とも言えます。いったい楽しさとはどうゆうことなのかを、彼女は常に読者に提示し続けるのです。遊び心満載です。
この作品は、シリーズ第一部の『魔法使いハウルと火の悪魔』から22年後、第二部の『アブダラと空飛ぶ絨毯』から18年後にあたる2008年の出版です。著者であるダイアナ・ウィン・ジョーンズには、シェークスピアの『テンペスト』を下敷きとした第四部の構想もあったようですが、惜しまれながら彼女は2011年に亡くなりました。
現代という時代は、ジェンダーに平等性を求めています。そんな時代にあっては、この物語の主人公チャーメインのような、家事をしない女性の主人公も、当然のごとく登場してきます。
今でこそ当たり前のことですが、今まで、女性に求められていた様々な伝統的な役割は過去のものとなり、新たに、自立や、知性、教養が求められているのです。読書家でもある主人公チャーメインは、そんな時代の新しいメタファーです。著者のダイアナ・ウィン・ジョーンズ自身、幼少からの読書家でした。
このように作者の分身のような登場人物が、彼女の作品には多数登場します。そして、彼女の作品に通底するテーマは、現代の女性にとっては、リアリティーのある切実な問題を含んでいます。
とはいっても、この物語の主人公チャーメインは、まだ14歳です。その設定年齢からして、軸となる読者の年齢層は低いものと思われます。それに伴って自ずとこの作品のテーマの追求度は、入門編と言ったところまでに留まるのでしょうが。
さて、お話です。第二部でジンにさらわれた三十人の王女の中に高齢の王女がいました。舞台は、その王女の父が統治するハイノーランド王国です。
主人公のチャーメイン・ベイカーは、ハイノーランド王国の王室づきの魔法使いウィリアム・ノーランドの遠縁にあたる少女です。そのウィリアム大おじさんが、病気の治療で家を空けることになって、彼女は彼の家の留守番を頼まれるというのがお話の発端です。
彼女は、過保護な両親のもとで世間知らずに育てられました。知っているのは、大好きな本の中の世界ばかりで、それも最近では半ば退屈なものだと感じていました。大おじさんの家の留守番という話は、まさに渡りに船で、彼女は早速引き受けます。
出かけてみると、魔法使いウィリアム大おじさんの家には様々な魔法がかかっています。魔法の家は、空間を折りたたむことによってできていて、どことどこの扉が通じているのかさっぱり分かりません。至るところに仕掛けられた魔法によって、質問を声に出せば、大おじさんが、想定していた質問になら答えてくれるようになっています。
初めはその声を頼りに進みました。すると所定の場所に進むには、色々な決まり事があることが分かってきます。そして、やがて知ることとなるのですが、この魔法の家は王宮を始め、あらゆるところに通じているのでした。また空間的にばかりか、時間的にも扉は開かれているようです。つまり過去や未来にさえ通じているのです。
ところで、彼女の作品に出てくるこの複数の場所や時に開かれている扉。第一部と第二部でもハウルの城の扉には魔法がかかっていて色々な所へ通じていました。作者ジョーンズにとって、これらは特別なモチーフなのでしょう。
思うに、読書家の彼女にとって、扉とは本に例えられていたのではないでしょうか。つまり彼女が考える読書という経験のイメージともとれるのです。扉と、その不特定の行き先は、読書と、語られたことの現実における試行錯誤の場に対応しているのではないでしょうか。
また、それと同じことを例えたであろう出来事が、この物語にはもうひとつ展開されます。主人公チャーメインは、お話序盤から登場する、意志をもった魔法の書である『パリンプセストの書』の所有者に最終的になります。
本の世界に留まること、つまり本の虫になるだけでは、有効な本の使用法としては弱いのです。そう読書は、現実での試行錯誤との相乗効果で、より遠くを目指してゆきます。つまり、そんな状況を、本に撰ばれた所有者という形で表現しているのではないでしょうか。
読書は、ここまできて、やっとその本領を発揮するということ。そんなことを作者である彼女は、子供たちに伝えたかったのではないでしょうか。そう考えると、この物語は、著者ダイアナ・ウィン・ジョーンズの読書作法にもなっているのです。
チャーメインは、最近まで迷子だった仔犬の<宿なし>(実は王国に守りと繁栄をもたらすと言われる<エルフの宝>)と、ある日、突然、大おじさんに弟子入りにきた、あまり馬の合わない、男の子ピーター・リージス(色々な経緯により、モンタルビーノの魔女を母にもつけれど、ハイ・ノーランド王国の正式な王位継承者)と共に、魔法の家で暮らし始めます。
物語の中盤からは、彼女はかねてからの念願だった、王国図書館での仕事にありつきます。仕事の内容は蔵書の目録づくりです。本の題名、その著者、簡単な内容を記してゆきます。そうして王宮に出入りするうちに、王国の衰退、あるいは王国の宝物庫から消えた宝をめぐる騒動に巻き込まれてゆくことになります。
そして、この物語シリーズではお馴染みのキャラクター、ハウル(国王の命令により、自らの計略で、<キラキラ>という子どもに変身している)やソフィー、カルシファーといった第一部からの顔ぶれも交えて、彼らも期待にたがわぬ活躍を見せてくれます。当然、カルシファーの動く城も登場します。
お話はユーモアたっぷりで面白いです。
読みようによっては、読者の年齢を問わないそのスタイルは、J.R.R.トールキンが言うような優れたファンタジーに共通する特質を持っているとも言えます。
また、彼女のファンタジーは、楽しさの追求とも言えます。いったい楽しさとはどうゆうことなのかを、彼女は常に読者に提示し続けるのです。遊び心満載です。
この作品は、シリーズ第一部の『魔法使いハウルと火の悪魔』から22年後、第二部の『アブダラと空飛ぶ絨毯』から18年後にあたる2008年の出版です。著者であるダイアナ・ウィン・ジョーンズには、シェークスピアの『テンペスト』を下敷きとした第四部の構想もあったようですが、惜しまれながら彼女は2011年に亡くなりました。
現代という時代は、ジェンダーに平等性を求めています。そんな時代にあっては、この物語の主人公チャーメインのような、家事をしない女性の主人公も、当然のごとく登場してきます。
今でこそ当たり前のことですが、今まで、女性に求められていた様々な伝統的な役割は過去のものとなり、新たに、自立や、知性、教養が求められているのです。読書家でもある主人公チャーメインは、そんな時代の新しいメタファーです。著者のダイアナ・ウィン・ジョーンズ自身、幼少からの読書家でした。
このように作者の分身のような登場人物が、彼女の作品には多数登場します。そして、彼女の作品に通底するテーマは、現代の女性にとっては、リアリティーのある切実な問題を含んでいます。
とはいっても、この物語の主人公チャーメインは、まだ14歳です。その設定年齢からして、軸となる読者の年齢層は低いものと思われます。それに伴って自ずとこの作品のテーマの追求度は、入門編と言ったところまでに留まるのでしょうが。
さて、お話です。第二部でジンにさらわれた三十人の王女の中に高齢の王女がいました。舞台は、その王女の父が統治するハイノーランド王国です。
主人公のチャーメイン・ベイカーは、ハイノーランド王国の王室づきの魔法使いウィリアム・ノーランドの遠縁にあたる少女です。そのウィリアム大おじさんが、病気の治療で家を空けることになって、彼女は彼の家の留守番を頼まれるというのがお話の発端です。
彼女は、過保護な両親のもとで世間知らずに育てられました。知っているのは、大好きな本の中の世界ばかりで、それも最近では半ば退屈なものだと感じていました。大おじさんの家の留守番という話は、まさに渡りに船で、彼女は早速引き受けます。
出かけてみると、魔法使いウィリアム大おじさんの家には様々な魔法がかかっています。魔法の家は、空間を折りたたむことによってできていて、どことどこの扉が通じているのかさっぱり分かりません。至るところに仕掛けられた魔法によって、質問を声に出せば、大おじさんが、想定していた質問になら答えてくれるようになっています。
初めはその声を頼りに進みました。すると所定の場所に進むには、色々な決まり事があることが分かってきます。そして、やがて知ることとなるのですが、この魔法の家は王宮を始め、あらゆるところに通じているのでした。また空間的にばかりか、時間的にも扉は開かれているようです。つまり過去や未来にさえ通じているのです。
ところで、彼女の作品に出てくるこの複数の場所や時に開かれている扉。第一部と第二部でもハウルの城の扉には魔法がかかっていて色々な所へ通じていました。作者ジョーンズにとって、これらは特別なモチーフなのでしょう。
思うに、読書家の彼女にとって、扉とは本に例えられていたのではないでしょうか。つまり彼女が考える読書という経験のイメージともとれるのです。扉と、その不特定の行き先は、読書と、語られたことの現実における試行錯誤の場に対応しているのではないでしょうか。
また、それと同じことを例えたであろう出来事が、この物語にはもうひとつ展開されます。主人公チャーメインは、お話序盤から登場する、意志をもった魔法の書である『パリンプセストの書』の所有者に最終的になります。
本の世界に留まること、つまり本の虫になるだけでは、有効な本の使用法としては弱いのです。そう読書は、現実での試行錯誤との相乗効果で、より遠くを目指してゆきます。つまり、そんな状況を、本に撰ばれた所有者という形で表現しているのではないでしょうか。
読書は、ここまできて、やっとその本領を発揮するということ。そんなことを作者である彼女は、子供たちに伝えたかったのではないでしょうか。そう考えると、この物語は、著者ダイアナ・ウィン・ジョーンズの読書作法にもなっているのです。
チャーメインは、最近まで迷子だった仔犬の<宿なし>(実は王国に守りと繁栄をもたらすと言われる<エルフの宝>)と、ある日、突然、大おじさんに弟子入りにきた、あまり馬の合わない、男の子ピーター・リージス(色々な経緯により、モンタルビーノの魔女を母にもつけれど、ハイ・ノーランド王国の正式な王位継承者)と共に、魔法の家で暮らし始めます。
物語の中盤からは、彼女はかねてからの念願だった、王国図書館での仕事にありつきます。仕事の内容は蔵書の目録づくりです。本の題名、その著者、簡単な内容を記してゆきます。そうして王宮に出入りするうちに、王国の衰退、あるいは王国の宝物庫から消えた宝をめぐる騒動に巻き込まれてゆくことになります。
そして、この物語シリーズではお馴染みのキャラクター、ハウル(国王の命令により、自らの計略で、<キラキラ>という子どもに変身している)やソフィー、カルシファーといった第一部からの顔ぶれも交えて、彼らも期待にたがわぬ活躍を見せてくれます。当然、カルシファーの動く城も登場します。
お話はユーモアたっぷりで面白いです。
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