子どもの本を読む試み いきがぽーんとさけた
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『チャーメインと魔法の家』 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 徳間書店
ダイアナ・ウィン・ジョーンズの本の面白さはどこにあるのでしょう。いっけん子供向けのファンタジーに見えますが、大人でも読めてしまうのは、テーマが正義のようなものを扱っているのはいいとして、決して子供の本にありがちな、安直な結末には至らないからだと思います。

読みようによっては、読者の年齢を問わないそのスタイルは、J.R.R.トールキンが言うような優れたファンタジーに共通する特質を持っているとも言えます。

また、彼女のファンタジーは、楽しさの追求とも言えます。いったい楽しさとはどうゆうことなのかを、彼女は常に読者に提示し続けるのです。遊び心満載です。

この作品は、シリーズ第一部の『魔法使いハウルと火の悪魔』から22年後、第二部の『アブダラと空飛ぶ絨毯』から18年後にあたる2008年の出版です。著者であるダイアナ・ウィン・ジョーンズには、シェークスピアの『テンペスト』を下敷きとした第四部の構想もあったようですが、惜しまれながら彼女は2011年に亡くなりました。



現代という時代は、ジェンダーに平等性を求めています。そんな時代にあっては、この物語の主人公チャーメインのような、家事をしない女性の主人公も、当然のごとく登場してきます。

今でこそ当たり前のことですが、今まで、女性に求められていた様々な伝統的な役割は過去のものとなり、新たに、自立や、知性、教養が求められているのです。読書家でもある主人公チャーメインは、そんな時代の新しいメタファーです。著者のダイアナ・ウィン・ジョーンズ自身、幼少からの読書家でした。

このように作者の分身のような登場人物が、彼女の作品には多数登場します。そして、彼女の作品に通底するテーマは、現代の女性にとっては、リアリティーのある切実な問題を含んでいます。

とはいっても、この物語の主人公チャーメインは、まだ14歳です。その設定年齢からして、軸となる読者の年齢層は低いものと思われます。それに伴って自ずとこの作品のテーマの追求度は、入門編と言ったところまでに留まるのでしょうが。



さて、お話です。第二部でジンにさらわれた三十人の王女の中に高齢の王女がいました。舞台は、その王女の父が統治するハイノーランド王国です。

主人公のチャーメイン・ベイカーは、ハイノーランド王国の王室づきの魔法使いウィリアム・ノーランドの遠縁にあたる少女です。そのウィリアム大おじさんが、病気の治療で家を空けることになって、彼女は彼の家の留守番を頼まれるというのがお話の発端です。

彼女は、過保護な両親のもとで世間知らずに育てられました。知っているのは、大好きな本の中の世界ばかりで、それも最近では半ば退屈なものだと感じていました。大おじさんの家の留守番という話は、まさに渡りに船で、彼女は早速引き受けます。

出かけてみると、魔法使いウィリアム大おじさんの家には様々な魔法がかかっています。魔法の家は、空間を折りたたむことによってできていて、どことどこの扉が通じているのかさっぱり分かりません。至るところに仕掛けられた魔法によって、質問を声に出せば、大おじさんが、想定していた質問になら答えてくれるようになっています。

初めはその声を頼りに進みました。すると所定の場所に進むには、色々な決まり事があることが分かってきます。そして、やがて知ることとなるのですが、この魔法の家は王宮を始め、あらゆるところに通じているのでした。また空間的にばかりか、時間的にも扉は開かれているようです。つまり過去や未来にさえ通じているのです。



ところで、彼女の作品に出てくるこの複数の場所や時に開かれている扉。第一部と第二部でもハウルの城の扉には魔法がかかっていて色々な所へ通じていました。作者ジョーンズにとって、これらは特別なモチーフなのでしょう。

思うに、読書家の彼女にとって、扉とは本に例えられていたのではないでしょうか。つまり彼女が考える読書という経験のイメージともとれるのです。扉と、その不特定の行き先は、読書と、語られたことの現実における試行錯誤の場に対応しているのではないでしょうか。

また、それと同じことを例えたであろう出来事が、この物語にはもうひとつ展開されます。主人公チャーメインは、お話序盤から登場する、意志をもった魔法の書である『パリンプセストの書』の所有者に最終的になります。

本の世界に留まること、つまり本の虫になるだけでは、有効な本の使用法としては弱いのです。そう読書は、現実での試行錯誤との相乗効果で、より遠くを目指してゆきます。つまり、そんな状況を、本に撰ばれた所有者という形で表現しているのではないでしょうか。

読書は、ここまできて、やっとその本領を発揮するということ。そんなことを作者である彼女は、子供たちに伝えたかったのではないでしょうか。そう考えると、この物語は、著者ダイアナ・ウィン・ジョーンズの読書作法にもなっているのです。



チャーメインは、最近まで迷子だった仔犬の<宿なし>(実は王国に守りと繁栄をもたらすと言われる<エルフの宝>)と、ある日、突然、大おじさんに弟子入りにきた、あまり馬の合わない、男の子ピーター・リージス(色々な経緯により、モンタルビーノの魔女を母にもつけれど、ハイ・ノーランド王国の正式な王位継承者)と共に、魔法の家で暮らし始めます。

物語の中盤からは、彼女はかねてからの念願だった、王国図書館での仕事にありつきます。仕事の内容は蔵書の目録づくりです。本の題名、その著者、簡単な内容を記してゆきます。そうして王宮に出入りするうちに、王国の衰退、あるいは王国の宝物庫から消えた宝をめぐる騒動に巻き込まれてゆくことになります。

そして、この物語シリーズではお馴染みのキャラクター、ハウル(国王の命令により、自らの計略で、<キラキラ>という子どもに変身している)やソフィー、カルシファーといった第一部からの顔ぶれも交えて、彼らも期待にたがわぬ活躍を見せてくれます。当然、カルシファーの動く城も登場します。

お話はユーモアたっぷりで面白いです。


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18:43 : ダイアナ・ウィン・ジョーンズ : comments(0) : trackbacks(0) : かがりん :
『アブダラと空飛ぶ絨毯』 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 徳間書店
この物語は、イギリスのファンタジー作家、ダイアナ・ウィン・ジョーンズの手に成るものです。そして、また、この作品は、アラビアの一大説話集である『千夜一夜物語』を下敷きとした、彼女による再話の試みとも取れるものです。ご存知のように彼女は何かを下敷きにしたとしても、その痕跡を残さないことで定評があるので推測の域を出ませんが…。

シリーズものであり、第一部『魔法使いハウルと火の悪魔』の第二部で、姉妹編ということになっています。この第一部は、日本ではスタジオジブリの『ハウルの動く城』の原作として有名です。

このシリーズ第二部は、単独で読むこともできますが、第一部を読んでいることが、物語を、より楽しく読むための必須条件になっています。



ところが、初読では、どんなに読み進めても、シリーズものの第二部という位置づけが、読み取れない構造となっています。作者ダイアナ・ウィン・ジョーンズは、自らこのことを告白しているし、それは彼女の遊び心の表れといってもいいものなのでしょう。仕掛けが施されているのです。

その仕掛けは常に働いているのですが種明かしがされるのは、なんと最終章の大団円を待たなければなりません。それは、第一部の主要登場人物の隠されていた秘かな登場を含みます。中盤でソフィーの正体は明かされるものの、ハウルやカルシファーに於いては、巧妙に最終章まで隠されています。

そう、最終章に至って、何気なく読んできた一部の登場人物に、俄然多くの情報が付加されて、改めてお話をさかのぼってみると、それらの登場人物の行動の意図が、よりはっきりと読み取れる仕組みになっているのです。

しかし、そのように知れた辻褄は、より物語の感動を高めてくれるでしょう。場合によっては、再読が必要となる箇所があるかも知れませんが…。



この物語は、ラシュプート国ザンジブ市のバザールで、絨毯を商っている主人公アブダラが、ある日のこと怪しげな男から空を飛ぶ魔法の絨毯(実は、火の悪魔カルシファー)を手に入れることに始まります。彼は、その絨毯の上で眠り込んでいると、不思議な庭園に飛ばされて、美しくも賢い<夜咲花>に出会い、恋に落ちるのでした。

しかし、アブダラは、その<夜咲花>と駆け落ちをしようとした矢先、彼女は魔神、ジンにさらわれてしまうのです。しかし<夜咲花>の父親である君主のスルタンは、アブダラをその犯人として投獄するのでした。

アブダラは魔法の絨毯の助けを借りて牢を抜けだします。そしてそれ以降<夜咲花>を取り戻すべく、アブダラの冒険が綴られていくのですが、これが、お話の本筋となっています。

舞台は、アブダラが<夜咲花>を追うに連れて、ザンジブ市からオキスタン国(『魔法使いハウルと火の悪魔』の舞台となったインガリー国)に移ります。そしてずる賢く胡散臭い兵士(実は、高潔なオキスタン国王子ジャスティン)や、気難しく扱いにくい、瓶の中に閉じ込められた精霊、ジンニー(実は、王室付き魔法使いハウル)がアブダラの<夜咲花>探索の旅に加わります。

物語中盤では、アブダラは、正体が明かされたソフィー(実は、魔法で猫の<真夜中>にされていた)と、<夜咲花>の行方を追って空中城に向かうのですが、このあたりから、ソフィーによる、行方不明になっている、自身の夫であるハウルと、二人の間に生まれた子供であるモーガンの探索のお話も、並行して展開されていき、物語の厚みも増していきます。

それは、これ以降この物語が、第一部の『魔法使いハウルと火の悪魔』のシリーズものであることの証にもなってゆきます。例えば重要な道具立てである動く城の登場や、お馴染みの登場人物登場がそれにあてはまります。



このシリーズの特徴としてあげられるのは、登場人物に次々と訪れる、苦境からの決してスマートとは言えない、その逃走劇にあると思います。何とか瀬戸際でピンチを脱出する登場人物に、ハラハラさせられると同時に、とっておきのユーモアが感じられるのです。

それは、我々の現実生活での出来事の、有意義な焼き直しになっているのです。つまりこの物語はファンタジーというジャンルの陥りがちな絵空事という批判を乗り越えて、我々の現実生活に、しっかりと生成を果たしています。

ダイアナ・ウィン・ジョーンズの、このあたりの巧みさは、さすがJ・R・R・トールキンやC・S・ルイスに師事していただけのことはあります。空想(ファンタジー)に関してのしっかりとした哲学が感じられます。


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19:17 : ダイアナ・ウィン・ジョーンズ : comments(0) : trackbacks(0) : かがりん :
『魔法使いハウルと火の悪魔』 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 徳間書店
スタジオジブリ作品『ハウルの動く城』の原作です。ジブリ作品を観た方なら、本のタイトルはお察しの通り、ハウルというのは理由ありの魔法使いであり、火の悪魔とはハウルと契約を交わしたカルシファーのこととわかるでしょう。

また、作者のジョーンズは、ジブリ好きです。彼女は完成した映画を見て、大変満足したそうです。



このお話の発端は、まだ娘盛りの主人公、帽子屋のあととり娘、ソフィーが、ある日来店した、恐ろしい荒れ地の魔女に、何の因果か呪いの魔法をかけられて、90歳のお婆さんの姿にされてしまうというものです。

これをきっかけに、その呪いを解くために、ソフィーは藁にもすがる思いで、最近ここらに出没する、悪名は高いけれど魔法使いであるハウルに近づくことになります。



ところで、ソフィーは、何故、お婆ちゃんに変身させられてしまわなければならなかったのか。創作上、なにか考えがあったのではないかと思われます。

そこには長女ゆえに妹達とは違って、実家の帽子店を、嫌が上でも継がなくてはならないという、生まれた時からの運命、それゆえに、自身の出世のことなど考えもしなかった彼女の境遇。

そして、その彼女が大人になる今、これからも只々平凡に帽子屋の店子として毎日を過ごしていくんだという結末が老女になるという比喩とマッチして、これまでのファンタジーなら、お話が成立しませんが、という作者ジョーンズの大きな前置きになっているように思うのです。

それを、作者は、ソフィーの考えを誤った思い込み(彼女の読書好きがそうさせた。本の登場人物の長男、長女は大抵損な役回りを演じているという思い込み)とすることによって、この物語を、これまでのファンタジーの方向性から、逸脱させたかったのではないでしょうか。ファンタジーといえば、いつもこういった女性は受身的存在でしたが、ここに女性が積極的に活躍するファンタジーを成立させます。



ソフィーは、自分に向けられている危機に果敢に対応してゆく中で、どんどん自分への縛りを、ゆるくしてゆきます。

とにかく今まで通りにすごしていては、元の彼女に戻れません。これまでは、恥ずかしくてできなかったことも、老女となった今では、逆にそれを利用して、かまわないでやってしまいます。

まさに、尻に火が付いた状況といいますか。そこが楽しく描かれていて、ちゃんと面白い物語になっています。

実際、ソフィーも、余裕が出てきて、そんな生活を楽しむようになります。彼女の人生は90歳の身体を押し付けられて、終わるどころか、逆に、遅ればせながら、今始まったのです。



ここまでは、まだ序盤です。続きに興味がある方は、ぜひご自身で本を手にとってみてください。作品は、いたるところにユーモアが散りばめられていて楽しいので、どんどん読み進めて行けます。



最終的に、ソフィーは彼女に向けられていた課題、思い込みからの開放を、何度も弱気になってくじかれますが、ハウルとの生活の中でそれらを果たしてゆきます。それどころか自分を肯定的にとらえることも覚えます。

この物語を、大きな意味ではソフィーの内面的成長のお話とすることもできますが、私はそんなに大仰なこととはとらえませんでした。もっと楽しんで読むお話です。新しい世界に触れて、彼女の着眼点がただ移動していっただけなのだと思いました。これだけで十分なのです。するとどうなるか‥。



作者ジョーンズは、幼い頃から古典に親しみ、英雄がなぜ男性ばかりなのか、いつも女性は受け身の存在であることに歯がゆさを覚えていたようです。ここに女性が活躍する、とびっきりのファンタジーが生まれる秘密がありそうです。彼女はオックスフォード大学では、あの『指輪物語』のJ・R・R・トールキンや『ナルニヤ国ものがたり』のC・S・ルイスに師事していました。彼らの系譜も受け継いでいるようにも思われます。


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